京都の伝統と異端
カテゴリー:Ki-Yan Stuzio
2015.06.27
皆さんこんにちは。
琳派誕生400年に合わせ、現代の琳派と称されるキーヤンこと木村英輝先生の魅力を掘り下げていこうという今年だけのこの企画。
今回は京琳派の神坂雪佳(かみさかせっか)を取り上げます。雪佳は明治から昭和にかけて活躍した画家ですが、日常生活の中に生きる作品を創ることに特に熱意を注いでいました。呉服、陶器、漆器など工芸品と呼ばれるものです。今でいうデザイナーのような存在ですね。そんな雪佳の特徴、画業を調べてみるとキーヤンに通じるものが色々と見えてきました。
デザイン的
神坂雪佳《金魚玉図》部分
こちらは以前ブログでご紹介した真正面の金魚です。意表をつくアングルとデフォルメされた左右対称の形態がとてもユニークですね。
木村英輝《Good Luck Goldfish》
愛知県愛西市の金魚錦鯉専門店 丸富さまに描かれているキーヤンの金魚。
神坂雪佳《紅葉》部分
葉が全てこちら側を向いています。実際にはありえない光景を構成している点がデザイン的です。
神坂雪佳《蝶千種》部分
どの蝶も奇麗に正面に羽を見せてくれています。
木村英輝《Festive Alley》
京都くろちく・祇園 倭美坐さまの天井画。目の覚めるようなカラフルな蝶です。羽は全てこちら側に向けられています。
雪佳は単純化された形態や同じパターンの繰り返しなどの琳派の特徴をさらに押し進め、より現代的なデザインに近づいています。特に蝶はこのまま広告などに使えそうで、先進的な感性には驚かされます。
キーヤンは京都市立美術大学(現 京都市立美術大学)の図案科を卒業され、その後しばらく講師をされていました。両者とも非常にデザイン感覚に優れていますが、比較してみると共通点とそれぞれの個性が見えてきて面白いですね。
「美術」に対する反骨精神
近代になり日本に入ってきた「美術」という言葉。それまでは「美術」も「芸術家」という概念もありませんでした。「絵師」や「職人」という職業的、商業的な感覚が支配していたのですが、文明開化により価値観が一変。非日常的で高尚な「美術」が一番とされ、工芸など日常生活に関わる身近な作品は区別され、ランクの低いものとみなされるようになりました。そんな中、雪佳は工芸作品にこだわり、依頼されれば何にでも描きました。同じ頃京都の美術画壇で活躍していた日本画家の竹内栖鳳は高く評価されており文化勲章を授章していますが、それに比べ雪佳の知名度が低いのは工芸者であったからです。「美術」とは距離を置き、実用と鑑賞を兼ね備えた「工芸」を大切にしていました。
一方、キーヤンも「美術」という業界からは距離を置き、“美術館に展示される絵よりも街に輝くポップな絵”をテーマに独自の道を歩んでいます。額に入れられ、美術館という特殊な空間に飾られる絵、言葉で説明する理屈っぽい絵を嫌うキーヤンは「美術」への反骨精神に満ちています。権威や主流に対する反骨精神はロックの精神に通底するものであり、ロックの世界に長く携わってこられたキーヤンと雪佳は精神性において共通しています。
共同制作
雪佳が活躍していた頃の京都の町は町衆が支配する都市空間でした。絵師の意図を理解し実現できる優秀な職人の組織が京都の特色だったのです。雪佳は常に共同制作によるものづくりを志向していました。
キーヤンも壁画チームによる共同作業を行っており、職業的な絵師というイメージが強いです。
共同作業によるこんな作品もあります。
版元「まつ九」さんとのコラボレーション版画《Smiling elephant》です。
日本画家、京版画の第一人者である徳力富治郎さん(1902〜2000)が起こした、京版画を継承する貴重な版元です。日本画家の土田麦僊に師事し、平塚運一、棟方志功らと「版」を発行されています。色使いが鮮やかでキーヤン作品の世界を見事に表現して下さっていますね。額部分は先生の直筆です!さきほど額に入れられた絵を嫌う、と説明したばかりですが(汗)美術館で展示はしていないですし、職人さんという地域に根ざした活動をされている方々とのコラボなのでオッケーだと思います!(笑)
こちらは店舗にて販売しております。興味をお持ちの方はぜひ観にいらして下さいね^^
ちなみに雪佳も青蓮院さんに《四季草花図》という襖絵を描いていますよ。ご存知でしたか?
参考資料 『神坂雪佳の世界 琳派からモダンデザインへの架け橋』(平凡社 2008年)